〜車知継ぎ〜 日本の伝統的な継手の技術

車知継ぎ(シャチヅギ)は、日本の伝統的な木工技術で、金物を使わずに木材同士を接合するために用いられます。この技術は、日本の建築や修理工事で古くから使われており、大工さんたちによって技術が継承されています。

車知継ぎ(しゃちつぎ)

車知継ぎは、竿車知継ぎ・車知栓継ぎと呼ばれることがあります。

竿ほぞ両端とほぞ穴両端に平行に車知栓の道(斜め合わせの切り欠き)に車知栓を打って締める確実性の高い継ぎです。

2つの部材の上端に取り付けて、部材同士を引き付けるために使われます。金具を一切使わない伝統工法であり、木の栓は一生引き続けることができます。

1000年以上立ち続けている頑丈な建物でもこの工法が使われていることがあります。

 

車知栓の打込み加減や、後からの増打ちで継手の胴付き部分の隙間を空けたくない場合に適しています。

車知栓は、長方形断面をもつ、薄くて長い栓で、打ち込むことで材同士を引きつけ、緊結させる働きをします。

栓の材料は堅木で、欅の材料が一般的です。

「栓」は、ほぞの引っ張りに抗する形に変えるものとして「鼻栓」や「込栓」があります。

「鼻栓」は、ほぞ先を接合材の外に貫いて出し、その先端にさして引っ張りに抗するものです。また「込栓」は、接合する二材を貫いて接合を固めるもので、「縫栓」とも言います。

竿車知栓継ぎ(やといほぞしゃちせんつぎ)【四方指し】

民家では、ほぞ指鼻栓によって梁と柱を繋ぐ架構技術 が発達しました。

梁ともに民家では柱を繋ぐ横材として、荷重支持と鴨居の役割を兼ねる指鴨居が用いられました。柱を挟んで向き合う指鴨居は敷居からの内法高さを揃えて架けられるため、ほぞに「鼻栓」を打つことが難しく、「込栓」を用いて、指鴨居と柱を繋ぐことが行われました。

下図は、奈良、江戸後期の住宅で、柱・指鴨居の竿車知による継手仕口です。

合成された「目違」(腰入目違と両目違的なもの)は竿を強化し指鴨居が捻れるのを防ぐものです。下側の突出は指鴨居の荷重を広い底面で受ける役割です。この柱は畳間四室の交点にあり、指鴨居が柱の四面に接しています。

この例のように、柱四面にほぞや竿を指し付ける仕口を四方指しといいます。

竿車知や込栓は鼻栓のように室内に突き出る要素がないため、近世の寺院建築などでもしばしば用いられました。

 

 

 

雇いほぞ車知栓継ぎ(やといほぞしゃちせんつぎ)

雇いほぞ車知栓継ぎも、通し柱の四方から梁が差し込まれる部分に使用されます。

向き合う指鴨居は直接継がれておらず、雇いほぞの一端は「蟻」、他端は「竿・車知」につくられています。

蟻を受ける柱側のほぞ穴は下部が、蟻先の巾に彫られ、上部が蟻形に彫られています。

組み方は、まず、雇い材の蟻形側をこのほぞ穴の下部に指し込んで上にずらして持ち上げ、蟻を噛み合わせ、次ぎに指鴨居を指し込み、指 鴨居の下方のほぞを柱のほぞ穴下部に納め、雇い材が下に落ちない状態をつくります。このとき同時に、柱から突き出た雇い材と指鴨居が継がれた形になり、そこに車知を打ち込むという仕口です。

ここで蟻をずらして接合する方法を寄蟻(よせあり)といいます。

寄蟻は桁と吊り束、梁と小屋束などの接合にも用いられました。

 

 

まとめ

これら継ぎ手は、日本の伝統的な建築や修理工事で使用されており、技術を継承するために大工さんたちが使い続けています。

弊社、丸晴工務店でも伝統技術を若い世代の大工にも伝えていけるよう、自社大工として多くの大工を育てています。

いつまでも伝統技術を守り続けていきたい。その想いで今日もお家をつくり続けています。

 

参考文献:誠文堂新光社「木組み・継手と組手の技法」

 

丸晴工務店の人気のブログはこちら

https://www.marusei-j.co.jp/木造建築における木組みの継手仕口とは何?/

丸晴工務店の人気の動画はこちら

https://youtu.be/xKrmrcWLLtE

 

 

木造建築で用いられる伝統的な「蟻継ぎ」って何!?

蟻継ぎと言われる継手は、なぜそう言われているかご存知ですか?

その名の通り台形の形が蟻の顔の形だからという説と、蟻の牙の形と言われる説。があるようです。また、鎌継ぎは蛇の鎌首が由来とされ、溝を切るために使う畦挽鋸(あぜひきのこ)は、田んぼの畔道が由来なんだそうです。

このように由来が生き物などに例えられているのには、わけがあって、昔は10歳〜13歳で弟子入りしていた子供にもわかりやすく覚えやすいようにと身近なものに例えられていました。

日本木造建築で用いられる継手

日本の木造建築で用いられる伝統的な切組み継ぎはその効用によってに分類されています。

〜単に長さを増すだけのもの〜

突付(つきつけ)

殺継(そぎつぎ)

 

〜捩れ(ねじれ)の力に耐えるもの〜

目違継(めちがいつぎ)

〜引張りの力に耐えるもの〜

蟻継

鎌継

竿継(竿車知継(さおしやちつぎ))

〜引張りと捩れ(ねじれ)の力に耐えるもの〜

追掛大栓継(おっかけだいせんつぎ)

https://www.marusei-j.co.jp/継手の中で一番引っ張り耐力の高い『追っ掛け大/

他にも金輪継(かなわつぎ)鶍継(いすかつぎ)などがあります。

 

蟻継ぎとは?

引張りに強い継手のひとつで、建築での本格的な使用は中世からと言われています。

引張強度は「鎌」や「追っかけ大栓」には及びませんが、接ぐ長さが短くてすみ、仕口では凹形に加工される通し材の繊維を欠く割合が比較的少ないため、仕口に多く用いられています。

昔は、大工さんが手で刻み加工していましたが、加工精度の均一化、及び作業の合理化が図られ、機械で加工するプレカットが主流になりました。

丸晴工務店では、この「蟻継ぎ」も手刻みしています。(手刻み動画はこちら→https://youtu.be/bPtxsZD1L1M

蟻継ぎの種類

吸い付きあり蟻継ぎ

板の裏面に吸い付き桟を取り付ける手法です。

天板の反りを止める効果と共に、テーブルなどの場合、脚への接合部となります。

天板の収縮にも対応が利く継手。

 

寄せ蟻継ぎ

板はぎや、甲板と幕板接合などに用いられます。女木側に蟻ほぞが入る四角の穴をあけ、蟻ほぞにこれを挿し込んで蟻溝に滑り込ませて引っ張りに耐える構造にしたもの。

これは、神棚を作る際にも用いられています。(動画はこちら→https://youtube.com/shorts/ZBypmAgL9Wk

 

参考文献:誠文堂新光社「木組み・継手と組手の技法」

 

丸晴工務店では、こうした仕口や継手も手刻みで行う、木組みの家を作っています。

現場の様子や手刻みの様子、継手の刻みの様子もYouTubeでご紹介中です。

YouTubeはこちら→https://www.youtube.com/channel/UCrm9-1wp-Or-9W7frbym86Q

 

継手の中で一番引っ張り耐力の高い『追っ掛け大栓継ぎ』とは?

木造建築には、軸組工法や2×4(ツーバイフォー)と呼ばれる工法があります。

その軸組工法には、木と木を組み、建物の強度を増す、または、古いものを再利用するための継手など、たくさんの技法があります。

ここでは、基本的な継手・仕口・組手についてお話したいと思います。

 

はじめに

木造建築の部材の接合を言い表す用語として、継手(つぎて)、仕口(しくち)、組手(くみて)、差口(さしぐち)、矧ぎ(はぎ)などがあります。いずれも近世の大工書に表れる用語です。

明治39年に刊行され、戦後にまで版を重ねた建築辞書『日本建築辞彙(にほんけんちくじい)』によれば、継手は材を継ぎ足す接合を、組手は桁(けた)や合掌梁(がっしょうばり)など部材が交叉する箇所での接合を、差口は一方の材側面に他材を取り付ける接合を言います。

さらに仕口は、上記の組手や差口をいうとあるので、仕口は角度をもって材を組み合わせる接合の総称と言えます。

また、同辞書に矧ぎの見出しはないですが、実矧、胴付矧などの項目から、矧ぎは板材の長手側面の接合を言うことがわかります。

このような仕口に決定的な変化をもたらしたのが十二世紀末に導入された、柱を貫き通し、柱相互を繋ぐ貫の技術です。当然そこには、柱と柱の内部で交叉する貫材という直交三軸を形作る部材を組むための、それまでになかった仕口や継手の技術が新たにもたらされました。

こうした様々な要因がからんで多様な継手仕口が歴史的につくられてきました。接合部によっては複合的な要因が働き、それに対応するために複雑な形の継手仕口が考案され、その結果、それらは優れた手業を表すものとして、見る人の興味を惹きつけるのです。

 

追っかけ大栓

辞書、教科書に見られるわずかの例を除けば、過去に使われていた継手仕口は、造り方とともに形や名前すら現実の工事から忘れられようとしています。

そんな中、現在でも長い材を継ながないといけない場所や強度の必要な場所での継手として使用されているのが「追っかけ大栓」です。これは、刻みが難しいことから、意匠の面からもこれを使われることもあります。

「追っかけ大栓」は、暦 1200年前後から見られるようになった略鎌が発展したもので、現在の形状になったのは 1400年頃と思われています。この形状は、追っかけ大栓継をはじめとする、金輪継、尻挟継、台持継などに共通した接合形状であり、構造的特徴は、顎と接合部の繊維方向の面圧性能を利用して、伝統構法の継手の中で曲げモーメントに対して最も
高い接合効率を発現しています。

強度について

追っ掛け大栓の強度はどんなものなのでしょうか。

繊維方向どうしを噛み合わせているため大きな耐力を持ち、継手の中でも最も引っ張り耐力の高い継手です。

最大の引張り荷重は、55KN〜65KN程度の値です。

ちなみに、このKN(キロニュートン)とは、

1kN(キロニュートン)が約100kg(キログラム)の重りと同じ力です。

つまり、55kN(キロニュートン)は、約5500kg(5.5トン)の質量と同じということになります。

この荷重に耐え得るというのは、やはり引張り耐力の高い継手ということがわかります。

使用する箇所は?

前述のように、高い引張り耐力をもつ継手のため、水平力による変形で引張り力が働く外周部の梁などで使用されます。

大地震の時には大きな引張り力が梁にかかるため、このような引張り耐力の一番大きな追っ掛け大栓継ぎを使用します。

込栓に関しては、4本打ちをしても耐力的に変わらないため、2本打ちが基本となっています。

 

継手を行う上でまず、地震などの外力などに対しても安全なこと。安全であるということは、単に強さだけを求めることではないのです。もちろん、壊れない丈夫さも必要ではありますが、万が一の場合にも瞬時につぶされてしまうことがなく、たとえ大きく傾いても、住み手が避難できる空間を保持することも大切な機能であるといえます。

そのため、建物の強さを測る実験だけでなく、建物の壊れ方の実験などに参加していくことで、柔軟で強い家づくりができます。

丸晴工務店は、壊れ方の実験をしている講義などに積極的に参加をして家づくりに役立てています。

 

参考資料:『大工塾』加力実験ノート:企画・編集 植久哲男

 

組手を多用する『数寄屋門作り』

https://youtu.be/8ur1i06B8dU

 

継手(つぎて)、仕口(しくち)とは?こちらに書いてあります。

https://www.marusei-j.co.jp/木造建築における木組みの継手仕口とは何?/

大工の墨付け〜現場LIVE〜

木組みの家づくりにおける、

柱や桁などの墨付けって見たことありますか?

そもそも墨付けって何?

って思われる方も多いと思います。

木を組む上で、一つ一つの木材に凹凸の加工をして組みます。

それを、仕口、継手などと言ったりします。

そんな仕口や継手を加工するための印をつけることを墨付けと言います。

現在では、手刻みで加工するところが少なくなってしまい、9割が機械によるプレカットになっています。

そのため、墨付けを見る機会も少ないと思います。

今回は、そんな墨付けをピックアップして、どんな風に木組みの家が出来上がるのか、楽しんで見て頂けたらと思います。

 

墨付けとは

木材の角材面に切ったり、削ったりする工作の基準となる線や記号、符号などをつけることを言います。

各工事を行う際の基準となる通り心や高さ、仕上げの位置などを工事の段階に応じて基礎や柱、壁面などに印をしたり、部材を刻み加工する前に、その加工に必要な基準線の位置、寸法、印などをつけます。

道具は、墨壺、墨刺、曲尺、尺杖などが用いられます。

木造住宅では、まず土台、桁、梁などの横架材の詳細な寸法関係(断面や内法寸法の微妙な食い違い)や、納まりの変更などの要素を検討してから墨付けをします。

地廻り(建物全体を一周する桁と梁の総称)よりも下方の部分では、部材同士は縦横内法間の垂直または水平による取り合い関係であるため、正確な寸法採りがなされていることが大切です。

地廻りよりも上部の軒廻りや小屋組ではさらに勾配の要素が加わるため、特に寄棟屋根や入母屋屋根などの複雑な寸法関係を曲尺一本で導き出すためには規矩術(曲尺によって描き出す図式解法)の習得が重要となります。

 

参考資料:

墨壺

材木の墨掛けや墨出しに用いる直線を引くための道具。

墨汁を染み込ませた墨綿を入れておく墨池、糸車、先端に針の付いた軽子、墨糸からなります。

 

 

墨打ち

道具は古代から墨壺が用いられ、繰り出して伸ばした墨糸の弾力性を利用して、それを弾くように直線の墨を打った墨打ち。また墨糸を多少たわませて墨打ちすることで、曲線を描くこともできます。

 

種類

鎌(かま)

主に継手に用いられる引張りに有効な基本形。

引張りに有効な継手として桁、母屋、棟木などに古代から用いられてきた。

 

蟻(あり)

引張りに抗する形で、引張強度は「鎌」に及ばないが、接ぐ長さが短くてすみ、仕口では凹形に加工される通し材の繊維を欠く割合が比較的少ないため、仕口に多く用いられる。

  

 

手板、番付表

手板、番付表と呼ばれる大工さんの図面を確認しながら、間違いのないように、番付表の記号を木材に記載し、墨付けをしていきます。

 

 

墨付けは、表に出るところの仕口や、部屋によっての材木の選び方、木の曲がりやむくりを確認して方向を決めたり、場所場所によって変えていく、そんなふうに人間にしかできない目利きをしながら、墨付けを行っています。プレカットになり、工期が短かくなったりとても便利にはなりましたが、プレカットではできない材料、納まりは大工さんの手刻みでおこなう必要性があります。天然乾燥材を主に使い、丸太を使ったりと様々な理由から手刻みで全棟おこなっております。またいい家を作りたい。その気持ちが手刻みには、こもっております。

 

You Tubeで今回の墨付けをしている動画を載せています。

よろしければ見てみて下さい。

https://youtu.be/3CtqDzmsS4U

 

その他ブログで継手仕口について書いた記事です。

https://www.marusei-j.co.jp/木造建築における木組みの継手仕口とは何?/

 

you tube更新しました。 『左官 漆喰押さえ』

 
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